近くに住む、90歳を超えた叔母から「今年も庭になった梅を漬けたからね」と、電話があった。「土用に干したら、あげられるからね。」去年、自分で漬けた梅干しを瓶詰めにして持ってきてくれた時に、「来年はもう作れないかもしれない。だから、これが最後かも。」なんてことを言うので、「すぐ食べきってしまうから、来年も頼みますね。」と明るく答えた。けれど、縁起でもないなぁ、と、ちょっと心に引っかかっていた。そんな訳で、今年も無事に梅仕事をこなしたと聞いて、安堵し、そして嬉しかった。きっと、この土用に、塩付けにした梅を庭に干しているのじゃないかなぁ。でも、この猛烈な暑さでの作業は危険なので、どうか無理はしないでくださいね、叔母さん。
梅仕事とは、その年に採れた梅の実で梅干しや梅酒などの保存食を作ること。梅の花は早ければ2月ごろから咲き出だし、3月中旬頃には実が生り始める。数ヶ月経った、6月から7月頃に収穫し塩漬けにする。その塩漬けの梅を7月末から8月初めの土用の時期に何日間か日に干す。それをさらに本漬けにすると梅干しが出来上がる。梅が生るのは年に一度。その時期を逃したらもう来年までは作りたくても作れない。旬の季節限定の手仕事だ。
夏の旬の食材を使った手仕事と言えば、らっきょう漬けとか赤紫蘇ジュース作りなどもある。食べ物に限らず、夏にしかできないことや出会えないもの、夏だからこそ楽しめることや経験できることなどもたくさんある。でもぼんやりしていると存分に味あわないうちに、「また来年お会いしましょう」とばかりに過ぎ去って行ってしまう。
俳句の季語も同じだなぁ。夏の季語は今この時期にしか使えない。焼け付くような真夏の空をいう炎天。もくもくと盛り上がった入道雲は雲の峰。夏の風物詩のかき氷、冷索麺、昆虫採集も、紫外線対策の日傘やサングラスも夏の季語になっている。夏を感じさせる季語はとっても豊富だ。思う存分夏に浸って、夏を詠む。今年の夏が終わったら夏の季語は「来年までお預け」ってことになるのだから。
会釈してすぐに外せしサングラス 真理子