暖かい日が続いたと思ったら、また寒い日に逆戻り。行ったり来たりの今日この頃ですが、来週6日は、二十四節気(1年を24の季節(節気)に分ける)の啓蟄(けいちつ)。啓は「ひらく」、蟄は「閉じこもる」という意味で、土の中で冬ごもりしていた虫たちが暖かさに誘われて穴から出てくる頃をいいます。
冬眠していた虫たちが、春の兆しを感じて、ぞくぞくと地上に這い出してくる頃、地上では木々の若芽が芽吹き、蕗の薹(ふきのとう)の花も咲き出しています。ほらほらみんな顔を出してきたよ。まもなく春本番だよと、告げているのです。
啓蟄は、俳句でも春3月の季語となっています。冬が終わり春らしい気分を感じさせる言葉。さらには、待ちわびた春に対するワクワク感やドキドキ感を伝えられる言葉でもあります。
春の訪れを感じた瞬間や暖かさを詠んだ俳句がたくさんあります。
蟻穴を出づ(ありあなをいず)、地虫穴を出づ(ぢむしあなをいづ)、地虫出づ(ぢむしいず)などを季語とした句もあります。これらは啓蟄の傍題(季語の変化形のようなもの)なのですが、春の気配を表現するだけでなく、穴から出た虫たちの様子を観察したり、さらにそこに自分の心情を寄せて詠んだりと、面白い句が多いです。
地虫出て犬の鼻息受けにけり 古谷 彰宏
出し穴を離れずにゐる地虫かな 粟津松彩子
蟻出るやごうごうと鳴る穴の中 村上鬼城
この季語に寄せて、新しいことへの挑戦を詠み込んだ句を見つけました。
地虫出づ人は宇宙に飛びたてり 中村まゆみ
ちょうどこの原稿を書いている時、テレビで、「宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士候補2人が決定した」というニュースが流れて、びっくりです。まさにこの句の世界と一緒じゃないですか。自然界が動きだすこの時、人類も宇宙へと新たなる挑戦を始めるのだ、というのです。大きな夢を抱き、勇気を持って未来を切り開いてゆけば、きっと明るい未来になるにちがいありません。
啓蟄という言葉を日常的に意識したり使ったことはなく、ましてや足で踏みつけているこの地面の中に虫が眠っていることに気づきもしませんでした。しかし、俳句を始めてからは、今日は啓蟄だと気づくと、地面を見つめることが多くなり、地面の下のことを想像するようになりました。しばらく見ていても虫に会えたことはないのですが…。
そんな思いを句に詠みたいのですが、なかなか言葉が見つかりません。次の句は、もうそこまで来ている春を感じた嬉しさを詠みました。
啓蟄や布団の中で背を伸ばす 真理子
虫たちも恐る恐る外へ出てきます。わたしも家にばかり籠っていないで、さぁ、動き出さなくっちゃ。日々明るい気持ちで過ごせる3月にしたいものです。
M.K.