前回の「俳句の世界でも猫たちは大きな存在感を放っています」の続きです。猫たちが主役の本をもう一冊紹介させてください。南伸坊氏が角川書店から出した「ねこはい」です。”猫が詠んだ俳句の絵本“、だそうです。
ねこはいとは、ねこのはいく(猫の俳句)。でも、猫を詠んだ俳句ではなく、猫が作った=猫が詠んだ俳句です。著者の南伸坊さんが「自分が猫だったら…」と思って、猫になりきって詠んだ俳句とイラストの俳句絵本です。
表紙を飾るのは、グラスに注がれるビールの前で鎮座しているおじさん猫。
そしてこのおじさん猫が詠んだ俳句は…
わがはいは
ビールのすきな
ねこである
そうか、そうか、キミもビールが好きだったのねと、思わず微笑んでしまいました。猫を人間に見立てた俳句が続くのかと思いきや、個性豊かな猫たちが次々と俳句を詠みあげます。
夏の木立を見上げる猫。その視線の先には夏の日射しに透ける青々と茂る葉。
ひにすける
ひにかげるはや
なつこだち
原っぱで秋風にそよぐ一面のねこじゃらしの中に佇む猫。
いちめんの
ねこじゃらしなり
われひとり
猫たちは、庭、台所、縁側、時として塀の上や空き地で、四季折々の景色をそれぞれの目線で俳句にしています。ページを繰っていくうちにどんどん猫と同じ目線になり、季節を楽しんでいる自分に気づきます。金魚鉢の中で揺らめくキンギョ、満開の桜とカラス 青空に浮ぶ真昼の月、カナカナの鳴き声。時には猫でなければ味わえない心境にもなってしまいます。
台所でそっとサンマを狙っている
こらをよぶ
ははのこえして
さんまやく
捕らえた蝉が口の中であばれている
せみなくな
くちがこそばい
やかましい
ねこはいは、ホントに、猫が詠んだ俳句絵本でした。そしてやっぱり、愛すべき猫たちなのです。
注:私が読んだのは、「ねこはい」の続編である「ねこはい に」(ねこはい2の意味)とさらに、描き下ろしのおまけも入った、贅沢な文庫版。
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