5月の句会のお題は鯉幟(こいのぼり)。5月5日は端午の節句ですから、5月らしい季語が選ばれました。子どもたちの健やかな成長を願って端午の節句に飾られる鯉のぼり。5月の風にのって青空にたなびく鯉のぼりを思い浮かべていて、ふと気づいたのです。そういえば鯉のぼり、見かけなくなったなぁと。ご近所で庭に鯉のぼりを揚げているお宅は一軒だけ。でもタイミングが悪いのか空を泳いている姿は拝めていません。連立するマンションのベランダにも飾っている気配がありません。いつからだろう、空を泳ぐ鯉のぼりを見かけなくなったのは…。
私が子どもだった頃(もう60年以上も前ですが)には、子どもの日の少し前になると父が庭に鯉のぼりを立ててくれ、小学校ではみんなで鯉のぼりの歌を合唱したものです。
鯉のぼりは、5月を代表する圧倒的な風物詩です。歳時記にも「5月の晴れた空を泳ぐ鯉幟は、いかにも日本らしい風景である。」と説明されています。しかし屋根より高いこいのぼりって、現代の、特に住宅街に住む子どもたちにはピンとこない風景なのかもしれません。鯉のぼりを高々と庭に揚げるなんてことは都会の家では難しいし、ベランダに飾ることを禁止しているマンションもあると聞きます。住宅事情だけでなく少子化などの今の日本社会の実情を写していることに気づきました。
やねよりたかい こいのぼり
おおきいまごいは おとうさん
ちいさいひごいは こどもたち
おもしろそうに およいでる
伝承されてきた季節の行事が、知らず知らずのうちに廃れてしまい、日本らしい風景がひとつ消えてしまうのか。鯉のぼりがたなびかない5月の空は寂しいなぁと、憂いていたところ、各地の川で鯉のぼりの川渡しなるイベントが催されていることをニュースで知りました。川の両岸に張られた綱に、数百もの鯉のぼりたちが連なっている姿は見事。風にあおられ一斉に空を泳ぎだす光景は壮観です。川面に映った鯉のぼりたちは、空だけでなく川の中をも泳いでいるように見えます。母親に抱っこされ一緒に空を見上げている幼子の満面の笑み。やっぱり鯉のぼりはいい。
甍の波を泳いでいなくていいのです。川風の中を泳いだり、あるいは川の中を泳いだり、はたまたマンションのリビングで置物になって揺らめいているかもしれません。どこで泳ごうとも鯉のぼりが泳ぐ姿はとにかく気持がいい。心が躍ります。子どもの成長を祈る親御さんたちの思いは、昔も今もそしてこれからも変わらないのですから。
さて、俳句作りに戻ろう。いまの時代に生きる私が詠む鯉のぼりの句。ともかく詠んでみよう。
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今を去ることうん十年前、私の長男が初節句を迎えた年に、今は亡き父がどこからか大きな鯉のぼりのセットを購入してきました。父と一緒に汗だくになりながら家の庭に深い穴を掘り、金属製の太い柱を立て、そして雄大な真鯉と緋鯉、吹き流しが空に舞うのを家族みなで見て大いに楽しみました