今年も狭い庭が紫色に染まっています。毎年暖かくなってくると自然に生え出し、しばらくすると紫の可憐な花を咲かせるこの花は、大根と同じ「アブラナ科」の植物で、中国原産の1年草。正式和名は「オオアラセイトウ」(大紫羅欄花)というそうです。
しかし正式名以外にも、大根の花によく似ているのでハナダイコン(花大根)とか、花の色が紫色なのでムラサキハナナ(紫花菜)など呼び名の多い花です。諸葛菜(ショカッサイ)という呼び名が一般的なようで、歳時記では春4月の季語に取り上げられています。
雨に濡れ花のやさしき諸葛菜 矢先春星
むらさきの風となるとき諸葛菜 稲畑汀子
諸葛菜とは、三国志で有名な諸葛孔明(しょかつこうめい)が、出陣の先々でこのタネを蒔き食糧としたことからついた名で、諸葛孔明が陣を張った場所にはこの花が咲くようになったと言い伝えられているそうです。
柔らかな薄緑色の葉は確かにお浸しにしたら美味しそう。しかし未だ食べてみたことはありません。もっぱら紫色の可憐な花を愛でるばかりです。この花が大好きだった亡くなった母は、咲き出すとまずは仏壇にお供えし、それから玄関に飾ったりして、愉しんでいました。
手入れを怠っている我家の庭は、時として得体の知れない植物も生えてきて悩まされることもありますが、諸葛菜は、なんのお世話もしないのに春になると決まって同じ場所に咲いてくれます。紫の花が群れ咲くと、我が家の庭はやさしい紫の霞に覆われます。自然の恩恵に感謝。
諸葛菜庭一面に母の色 真理子
諸葛菜について調べていたところ、思いがけない記事に出くわしました。最後に書き添えておこうと思います。
諸葛菜=オオアラセイトウは、平和の花、Peace Flowerとして、日中戦争の悲劇を繰り返さないためのシンボルともなっているとのこと。戦地となった満州や中国各地で、紫色の花の群生が美しく広がる風景を、兵士たちはどんな思いで目にしたことだろう…。今もこの紫色の花が語りかけるものを思い、切に平和を願います。