還暦も過ぎ、両親たちも見送り、去年から二人暮らしが始まったわたしたち夫婦。時間に余裕ができたこともあるけれど、コロナ禍のお籠もり生活での運動不足解消のため、二人で散歩することが多くなりました。連れだって歩いていても何を話すでもなく、黙々と歩くだけ。わたしは、空を見上げたりよそ様のお庭の植木に目を止めて、時折俳句を捻りながら歩きます。前を行く夫を見ながらこんな句を詠んだりして。

           菊芋の群れ咲く先に夫(つま)の居て

           小春日や夫(つま)と刻みし万歩計

俳句では、を「つま」といいます。も「つま」といいます。と書いても、と書いても、つまと読みます。上の二つの句には読み仮名をつけましたが、俳句や短歌に親しまれている方には慣れている言葉遣いであり常識のようです。わたしは俳句をはじめてから知り、「へぇ。そうなんだ。」といたく感心してしまいました。そういえば、高校の古文の授業で教わったような気がするけれど、うろ覚え…。

ネット上の古語辞典や関連する記事をあれこれ読んでみると、この「つま」という言葉は、古事記・万葉集時代から使われており、男女の一方から見た相手の呼び方であることがわかりました。夫婦が互いに相手を呼ぶとき(第三者が呼ぶときもある)に使う言葉。むかしは男女の区別なく、夫も妻も両方ともお互いを「つま」と呼んだのです。

では、「つま」とはいったいどういう意味なのか。日本国語大辞典によると「はじ、へり、端」と同じく、本体・中心からみて他端のもの、相対する位置にあるもの。人間関係では配偶者をいうそうです。また、「添うもの・伴うもの」という解釈もあって、現在の「刺身のつま」の「つま」はここから来ているそうです。

両端を支え合い、時には伴走し合う「つま」と「つま」。やがて、男性側から見る配偶者や恋人というように、女性を指す言葉として使われるようになり、現代では、夫が配偶者の女性を指すときの称として、「つま(妻)」を用いるように変遷しました。明治31年(1898年)、民法で、「つま」は女性に限定され、妻だけが「つま」と呼ぶことが正式に決められたとのこと。配偶者の呼び方って、ちゃんと民法で決まっているのですねぇ。知らなかった…。

法律上の呼び方はともかく、俳句では、現在もこのいにしえの言葉を使います。俳句における言葉遣いの基本が、文語(古語)で表現するからでしょうか。(もちろん口語で表現している句もたくさんあります。)それから字数制限にも関わっているのでしょうか。17文字と限られている俳句では、「おっと」だと、3字ですが、「つま」なら2字なので、1字分節約できます。さらに促音(つまる音)のある「おっと」よりも「つま」の方がリズムが良いような気もします。

目の前を歩いている夫(おっと)を、「つま」と詠んでみると、着古したジャージ姿の夫がかけがえのない相方だと気づかされました。言葉は不思議です。

庭のあたたかい枯れ葉の上で眠る野良猫
庭先でひなたぼっこの野良


参考:
古語辞典広辞苑(古語)