8月の暑い盛りに、「店じまい」と印刷された葉書が届きました。数十年前からお世話になっている呉服屋さんからで、「閉店のご挨拶。コロナ禍で着物の需要が減り、いままでのような営業がままならなくなりました」と書かれていました。ここ数年仕事と家のことで忙しかったためずっとご無沙汰していたので、閉店の知らせに驚き、同時に店を閉めるほどの苦境に陥っていたことに衝撃を受けました。

キモノは不要不急ということか…。新型コロナウイルスの感染防止のため行動が制限され、人が集まるイベントや会合が中止になり、今年の成人の日の記念式典は自治体によっては取りやめになりました。例年なら新成人たちが華やかな振り袖姿や袴姿で街を彩ってくれるところ、振り袖のレンタルと着付けのキャンセルが続出となったそうです。夏の花火大会も中止となり、浴衣を楽しむ機会もなくなりました。若者だけではありません。結婚式、パーティー、お茶会などのイベントも自粛となり、盛装や礼装として「キモノを着る場」がなくなりました。晴れ舞台に花を添えるキモノの出番が失われてしまったのです。

キモノを着ることが日常ではない今の時代、コロナ禍以前からキモノ離れは進む一方でキモノ業界は厳しかったのではないかと思いますが、この度の新型コロナウイルスの影響でキモノの需要は一気に落ち込み、閉店を余儀なくされる呉服屋が後をたたないそうです。

「キモノを着る場」がなければ、どんなにキモノ好きな人でも新調することはためらわれ、おのずと呉服屋からは足が遠のくでしょう。キモノが売れなければ、呉服屋の商売は成り立たなくなります。キモノを仕立てる職人さん(和裁の仕立士)の仕事もなくなります。着物地を生産する織物業や染色業は生産を止めざるを得なくなります。キモノに関わる伝統産業のそれぞれの専門分野が行き詰まってしまったら、それぞれの専門分野での伝統技術の承継にも影響を及ぼすことになるのは容易に想像できます。キモノの未来はどうなってしまうのだろう。

江戸時代の日本橋大伝馬町の木綿問屋街 (歌川広重)

コロナ禍が、呉服産業に限らずあらゆる産業にとって今後どのように影響を及ぼすのか想像がつきません。キモノは日本を象徴する美しい民族衣装です。伝統工芸としての価値は言うまでもなく、消滅させてしまうわけにはいきません。

件の呉服屋さんの葉書に、「熟慮の末、着物のアフターケアに特化したお店を目指すことを決意しました」と書き添えてありました。先行きが見えない状況の中で、それでもキモノに関わる仕事を続けられるご決意をされたことに頭が下がります。キモノが大好きな私にとってとても嬉しいことです。今後ともお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

コロナ禍ではキモノは不要不急と認識されても仕方ないと思います。でもキモノ文化そしてキモノ産業を継承してきた方々、現在なお継承し続けている方々、そして私も含めキモノが大好きな人たちには、今までもそしてこれからもキモノは必要不可欠な存在です。アフターコロナでも不要不急は続くと思います。その中で必要なモノを守っていくにはどうしたらいいのだろうか。