歳時記で春の季語を探していたら、猫の入った季語がたくさんあることに驚きました。猫だけでは季語としては使われませんが、猫と他の言葉を組み合わせた形で、季語として掲載されています。手元のホトトギス新歳時記(三省堂)では以下のラインナップになっています。
猫の恋。そして傍題として、恋猫。うかれ猫、春の猫。猫の妻。孕猫。(傍題とは季語の仲間(種類)のようなもの)
春先になり発情期を迎えた猫が相手を求める様子を、春の季語として取り上げているのです。春先、早ければ2月頃からでしょうか、我が家の庭を闊歩する野良猫たちが大きな鳴き声をあげたり、メス猫をめぐってオス猫同士がケンカをし出します。「またこの季節になったか」と、昼夜を問わず聞こえるあの独特な鳴き声に辟易するのですが、猫にとっては必死の恋のバトルであり、まさに猫の恋なのです。
松尾芭蕉の句です。猫の恋の季節で鳴き声が聞こえていたが、今は止んで、朧月の光が閨(寝室)に差し込んでいるという、春の夜の様子ですが、急に静かになって芭蕉自身も人恋しくなったのかなぁ、なんて思ってしまいます。
恋の季節の猫の姿を、相手に恋い焦がれ、恋愛という狂態を演じているかのように表す句もあります。
麦めしにやつるる恋か猫の妻 松尾芭蕉
ふみ分けて雪にまよふや猫の恋 加賀千代女
色町や真昼しづかに猫の恋 永井荷風
無事に猫の恋が実ると、赤ちゃんが生まれます。春は続いて猫の出産シーズンとなります。別の資料によると、子猫や猫の親といった言葉も春の季語として記載されています。遊んだり眠ったりしている様子はただただ愛らしい。
猫の子や親を距離れて眠り居る 村上鬼城
口あけて一声づつの仔猫泣く 中村汀女
発情期にあがるメス猫の大きな声とともに始まる猫の恋。そしてその後に誕生する子猫。俳句が登場し盛んになった江戸時代と同じ。春という季節を感じさせてくれる季語でした。