繊細にカットされたグラスが光に煌めく。その美しさに魅了されるのはきっと私だけではないはず。世界にはバカラ、ボヘミアなどガラス工芸で有名なところがありますが、日本のガラス工芸にも素晴らしいものがあります。今回はそのひとつ、日本橋の江戸切子のお店、華硝を訪ねてきました。
江戸切子とは、江戸時代、江戸の地より発祥し、発展してきたガラス工芸で、透明なガラスの上に色ガラスを重ねた「色被せガラス」に、江戸の伝統的紋様を手作業でカットしていくものです。店内に入ると、色とりどりのガラスの器が並べられていて、そのどれもがとても美しく、ため息が出るほどです。
写真のグリーンのぐい吞みは華硝オリジナル、細やかなカットに魅せられます。きょうはここで、江戸切子の制作を体験する予約をしてきたので、期待が高まります。江戸切子について説明を受けた後、早速、作業を開始しました。
まずはカットのデザインを考えます。渡された体験用のぐい吞みのグラスには、その外側にあらかじめカットの目安となるよう線が入れられているので、そこに自分が描く模様をペンで描き足していきます。それが終わるといよいよカットです。
「グラインダーのスイッチを入れると水が飛ぶかもしれないので少し後ろに身体を下げてくださいね」という指導の方の声に従って、後方に下がります。グラインダーが回り始めました。このグラインダーの刃にグラスを当てて、カットしていきます。どきどきしながら、恐る恐る、でも思い切ってグラスを押し付けると、カットされた箇所が透明になっていくのが分かります。そうやってまずはグラスの底に十字を二つ重ねて星を刻みます。グラスを強く押し付けると刻まれる線が太くなっていきます。が、思ったところに思ったようにカットしていくのは、至難の業。まっすぐ横にカットしていきたいのに、曲がってしまったり、カットし過ぎて線が長くなってしまったりと大変です。悪戦苦闘しながら、側面にもカットしていきます。カットを終えたら、最初に描いた下書きの線を消して、なんとか1時間の体験でマイぐい吞みが完成しました。我が家でくつろぎながら美味しい日本酒を呑むのが楽しみです。
体験を終え、店内を眺めると、ディスプレイされた品々のカットの繊細なことに改めて感嘆させられます。どのくらい年月を積み重ねたらこのような華麗なカットが施せるようになるのでしょうか。職人の方々の技に感動するばかりです。江戸切子には伝統的な紋様がいくつもありますが、華硝ではこれらをベースに独自の紋様も考案しています。鮮やかな被せガラスの色と、複雑な紋様が映し出す光の煌めきは、いつまでも見飽きず、その前にずっと佇んでいたくなります。華硝では最後の磨きの工程を「手磨き」で行っているそうで、この手磨きが、細かいカットの美しさを、なお一層、際立たせているようです。
江戸切子は国の指定する伝統的工芸品であり、近年では海外の人々への認知度も高まっています。そうした中で、新たなコラボレーションに挑むなど、未来に向けてチャレンジしていく様子が華硝の店内からも感じられました。店内写真の奥のマリンブルーのグラスは琉金ガラスとのコラボレーション、江戸切子模様ソーダ味のキャンディもコラボレーションで作ったそうです。伝統を受け継ぎながらも発展を続けている、江戸切子の今後が楽しみです。
江戸切子の店華硝:http://www.edokiriko.co.jp