銀糸を織り込んだ光沢のある背景に織り出された草花が可憐で思わず手に取った、東京国立博物館ミュージアムショップのブックカバー。江戸時代後期の琳派の画家である酒井抱一の夏秋草図屏風の絵が、桐生織の、とくに絵画織と呼ばれる技術を用いて細部に至るまで見事に描き出されています。

桐生織ブックカバー
桐生織ブックカバー
桐生織ブックカバー全容
桐生織ブックカバー全容

桐生(群馬県)は、西の西陣、東の桐生とも並び称されるほど古くから織物が盛んに行われてきたところ。明治期には国内ではいち早くジャガード機を取り入れ、伝統を生かしながらもその織物は発展を続けてきました。このブックカバーは、桐生織のジャガードの技法をベースに、とくに緻密に絵画を描き出せるよう工夫した絵画織によるものだそうです。

織機(岩秀織物)
織機(岩秀織物)

桐生織の得意としているジャガード織では、先染めの糸を材料とし、紋紙により機械に指示を与え、糸を自在に操って複雑な柄を織り出していきます。ジャガードによるものも含めて7つあるといわれる桐生織の技法(※)、それらを駆使して織りなされる細やかで美しい模様と、重厚さも軽やかさも演出できる織の技術の高さとが桐生織の大きな魅力と言えるでしょう。

桐生織箸入れ
桐生織箸入れ

桐生は養蚕に適した土地柄でもあるので、桐生織は絹を主な材料としていますが、近年では様々な材料を扱い、驚くほど幅広い織物を作っています。着物地や帯はもちろん、人形の着物、茶道で使う袱紗や神社のお守りなど。文楽の人形には、桐生織の伝統的お召織の着物を纏っているものもあるそうです。和装関連だけではなく、その技術を生かしたストールやワンピースなどの洋装の布地も織られており、美しいものが多くあります。

多彩な表情を見せてくれる桐生の織物。これからも注目していきたいと思います。

 

※桐生織の7つの技法

  • お召織 :(おめしおり) 八兆撚糸機で撚りをかけた(1mに3000回)糸を使用し、しぼ(織物面の凹凸)を作り出す。
  • 緯錦織 :(よこにしきおり or ぬきにしきおり) ジャガード機を用いた先染め紋織物で、紋様は緯(よこ)糸で表す。
  • 経錦織 :(たてにしきおり) ジャガード機を用いた先染め紋織物で、紋様は経(たて)糸で表す。
  • 経絣紋織:(たてかすりもんおり)  ジャガード機を用いた先染め紋織物で、経絣(たてかすり)糸は手くくり、板締め、型紙捺染などで染め、紋様を絵緯(えぬき)などで表す。
  • 浮経織 :(うきたており)  ジャガード機を用いた先染め紋織物で、紋様は浮きたてと絵緯で表す。
  • 風通織 :(ふうつうおり)  ジャガード機を用いた紋織物で、経糸、緯糸とも2色以上を使って二重に織る。
  • 捩り織 :(もじりおり)  ジャガード機を用いた先染め紋織物で、紋振いまたは変わり筬を使用。絽・紗など。

取材協力:
桐生織物記念館(群馬県桐生市)、岩秀織物(群馬県桐生市)