風に揺れる髪が美しい乙女や、色とりどりの服をまとったこびとたち。大きな木のたくさんの小さな葉の間から注ぐ木漏れ陽。藤城清治氏の描く世界は、こうした美しいメルヘンの世界というイメージがありましたが、今回、初めて訪れた氏の影絵展で見た作品は、私のそうしたイメージを遥かに凌駕する、大きくて奥深いものでした。
入り口で私を迎えてくれたのは「幸せを祈るメロディー」。乙女の吹く笛の音が聞こえてきそうな、優しいロマンティックな絵でした。赤い夕陽を反射させる水面の美しさに目を瞠ります。
先へ一歩足を進めるごとに、また新しい作品に魅了されます。宮沢賢治の童話の世界や、ユーモラスな表情の、でもよく見るとまるで本物のような毛並みの猫や動物たち。
そうした中で、人も動物もこびともいない、絵がありました。奈良を描いた一連の作品です。「雪の室生寺」もその一つ。大きな牡丹雪がふわりふわりと今にも舞い落ちてくるように感じられたのも、光の効果でしょうか。見ているとふとその世界に引き込まれてしまいそうな、そんな気持ちになりました。
「平和の世界へ」では、特攻隊の飛行機が飛んでいく彼方に、さまざまな国の国旗のフレアが揺れる大きな太陽が描かれていました。こぼれんばかりに咲く桜と大きな虹が悲しいほど美しい。平和への祈りの気持ちが伝わってきます。
繊細なカッティングと色使いで驚くほどリアリスティックに世界を映し出している氏の作品はどれも、ときに深い悲しみに満ちた風景であっても、どこか希望の光を感じさせてくれるものでした。館内は撮影が許可されていたので、作品の一部をここに紹介しますが、その本当の美しさをぜひ会場で感じて頂ければと思います。
藤城清治 影絵展2016「光と影は幸せをよぶ」。銀座教文館9F。2016年10月13日まで。