雑誌の編集者兼ライターという仕事柄、ちょっとめずらしい職業の方に会うチャンスに恵まれます。例えば、「幇間」。なんて読むの? と思われる方も多いかもしれないこの名称、答えは「ほうかん」です。別名、太鼓持ち。芸妓や落語家と同じ、れっきとした芸人さんのことですが、現在は日本全国でたった
の4人、それも浅草の見番(いわゆる花柳界のマネジメント事務所)にしか存在しないのだとか! それはもう、絶滅危惧動物にも等しいほどの希少価値なのです。
で、先日、『オレキバ』という雑誌(2月5日に新創刊)(すでに廃刊となっている!)の取材に便乗する機会があり、担当のライターやカメラマンの
方と一緒に、浅草の小料理屋の「お座敷」へ。お客は私も含めて、全6人。そこへ粋な着物姿で現れたのは、櫻川七好(さくらがわ・しちこう)師匠という幇間でした。
「もともと幇間の幇の字は助けるという意味で、いわばお座敷の間をもたせるのが仕事。男芸者などとも呼ばれていてね、しゃべったり、踊ったり、ヨイショしたり、いろいろ忙しいんですよ」などとその軽妙な語り口に耳を傾けていると、合間合間に入る冗談や皮肉などに、一堂、思わず笑いがこぼれます。その後は、「かっぽれ」を踊り、「芸者さんの一日」という当て振りを熱演するなど、その芸のほとんどを披露する大独演会。私たち観客は大いに楽しませてもらいました。
この七好師匠がこんなことを言っていました。「なくなりかけている職業というテーマで、数年前、新聞記者が私のところへ取材に来てね。聞けば、幇間のほかには、箍(たが)職人も選ばれたと言っていた」と。
昔から、酒、醤油をはじめ、さまざなものの容器としてつくられてきた樽を締める箍。樽にはなくてはならないもので、これをつくり、修理する職人がいなくなると、その樽本体を使えなくなる日が確実にやってくるわけで、実は、そうやってこの国は多くの貴重な伝統品を失ってしまったか、あるいは失いつつあるのです。
幇間も、いずれはいなくなってしまうのでしょうか。それではあまりにさみしい……。お座敷遊びは、一部のいわゆる旦那さん(パトロン)だけのものではなく、一般の人にもぜひ経験してもらいたい、と七好さんは訴えていました。芸妓や幇間をあげて、普段接することのない別世界の楽しみを味わう。それは、結局、日本人が大切にしてきた、たしなみとしての芸や人との交わり方を守っていくことにつながるのではないかと思うとき、これからの日本がそういう意識をもって伝統品や伝統芸への絶滅危惧度を減らすことを願うばかりです。(石原)
※この取材時の記事は、『オレキバ』№2(5月中旬発売)に掲載されます。