今年最初の、いろは堂スタッフのブログで、鼠色のことが紹介されていました。その発端となった年賀状を送ったのが私で、今回、ちょっと書かせていただくことになりました。それというのも、サントリー美術館(東京・六本木)で催された「和モード 日本女性、華やぎの装い」展(2007年12月23日?2008年1月14日)という展覧会について、すでに終了して半月以上もたってしまいましたが、ぜひ書きたいと申し出たからです。
この展覧会は、小袖や髪飾り、化粧道具、浮世絵といったサントリー美術館の所蔵品に表現された伝統様式を「和モード」と名付け、日本女性の装いの歴史と文化を伝えようとするものです。昨年3月末にオープンした東京の新名所、東京ミッドタウンにあるこの“和モダン”の美術館で、想像以上に優美で精緻な和モードの世界に浸ることができました
例えば、小袖。平安時代の十二単(じゅうにひとえ)から、江戸時代にはより華やかに、より多彩に進化した、いわばおしゃれなコートです。染めや織り、刺繍などの技術を駆使して、花鳥風月や文字などをあしらった展示品の小袖たちの、なんときらびやかなこと! 現代で最も華やかとされる花嫁衣裳の色打ち掛け以上の絢爛豪華さを誇る美術品がずらりと並び、見る人みな感嘆の声をあげるほどです。
そのほか、これも伝統工芸の蒔絵が施された櫛(見たこともないほど細かい櫛の目にもビックリ!)、隅々まで配慮されているうえに愛らしい化粧道具(これ欲しい、と思う現代女性もいるはず!)なども美の競演状態でした。見るほどに「日本の女性たちは、なんと美への探求心が強かったのだろう」と思うばかり。
自らを美しく装うこと。それはどんな時代でも、女性にとって大切な自己表現なのだと、展示品を見ながら確信しました。また、それを可能にしてくれる衣裳や道具の美しさは、つくり手の職人たちの技術あってこそのもの。
現に、実は、私がこの展覧会で一番印象深かったのが、『職人尽図屏風』(江戸時代17世紀)でした。機織、縫取(刺繍)、型置(染め)といった市井の職人たちが働く姿が描かれた屏風絵で、どんなふうにして作業をしていたかがうかがえるものです。こんな証拠写真みたいな作品が描かれていたことはとてもめずらしいと思いますが、まさに、美の陰に職人あり。残念ながら、こうした精巧で優美なものをつくれる職人さんが激減している現代の日本にあって、やはりまずは、伝統工芸品でその美に触れることの大切さを感じた展覧会でした。