一枚の布 – 小千谷縮み(おぢやちぢみ)

小千谷縮み雪から生まれる布小千谷縮みという夏のきもの地があります。麻の織物なのですが生地の表面に波状の皺があるのが特徴。皺はしぼと呼ばれ、この凸凹したしぼがあるお陰で、風通しが良いだけでなく肌に張り付かないさらりとした着心地になり、盛夏のきものにもってこいというわけです。

小千谷縮みの生産地は新潟県小千谷市。小千谷といえば豪雪地帯。一年の半分をも雪の中で過ごすことを強いられる農家の女性達によって受け継がれてきました。

麻の糸は乾燥すると切れやすくなるので、雪が降る11月から4月の湿度が高い間に糸を績み(うみ)、機織りをします。
降雪が落ち着く春になると、織り上がった反物の糊を落とすため洗う。そして晴れた日に雪の上に干して晒す。これが越後の春の風物詩、雪晒し(ゆきさらし)です。日光で雪が蒸発するときに生じるオゾンの漂白作用により生地が晒され、白はより白く、色柄は鮮やかになります。

糸作りに始まり反物として仕上がるまで、ひと冬4メートルも降る雪が小千谷縮みには不可欠であることを知りました。遠い昔小千谷の人は深い雪にも負けず、むしろその雪を利用して小千谷縮みを生み出したのです。

しかしこの伝統的な技法どおりに作られ、重要無形文化財の指定を満たすものは現在では「年に1反」といわれるほどの希少価値になってしまいました。なによりも糸の生産が危機に瀕しているのです。麻の繊維である青苧(あおそ)を口でくわえて爪で裂く。裂いてはまた裂き、髪の毛ほどの細い糸にする。それを結び、よりあわせ、太さの均一な一本の糸にする。気が遠くなるような作業を根気よく続け、ひと冬かけてできあがる糸の量は 1 反分にしかなりません。
雪が深く、なにもできなかった昔だからこその手仕事。その自然環境も時代も変貌してしまった今、雪から生まれたこの美しい布は幻になってしまうのでしょうか…

それでも近年績み子といわれる苧績みの職人が育ち、平成13年度、小千谷縮みは着尺で3反織り上がるようになったという嬉しいニュースを聞きました。単調で細かな作業の繰り返しを強いられる小千谷縮みには、越後の人の実直さが織り込まれ、雪の涼気を帯び、凛として美しい。

参考にした本:
きもの紀行 染め人織り人を訪ねて」 立松和平著、家の光協会出版