人形と小物入れと布


少し前のことですが、人形作家、与勇輝(あたえ ゆうき)氏の作品が展示されている「河口湖ミューズ館」に行きました。ご覧になったことがありますか? 多くは子ども達を題材にした作品で、その子ども達の表情や仕草がまるで本当に目の前にいるかのように、あどけなく、可愛らしく、ときにひょうきんに、ときに悲しく、表現されています。

ポスターを1枚帰りに買ってきたのですが、「ごめんください」と題されたこの作品は、作者解説によれば、母親にお使いを頼まれ、おそるおそる訪問先の玄関の格子戸を開けたところだそうです。少女の表情がなんとも言えず可愛らしいのです。ほかに、「おやつ」という作品では、四人姉弟が並んで行儀よくまんじゅうを前に座っているですが、弟らしき男の子の目がなんともいえません。どうやら「自分の分だけ小さい」と思っているようで微笑ましい。このように与氏の作品は、生活の中のほんの一瞬だけを切り取って、しかし、そこからいろいろな情景や気持ちを見事に伝えてきます(氏の作品をご覧になりたい方はこちらで紹介されているバックナンバーをご覧ください。もちろん本物は現地で)。

ところで、氏はこうした作品を作るのに古い布を利用しているそうです。私の好きな「ごめんください」の作品も実は女の子が手にもつ「風呂敷包みの布を見つけるのに長い時間がかかりました」ということで、材料にもこだわって集めていらっしゃることが分かります。

布と言えば、私の小物入れに古い着物のはぎれを使って作ったものがあります。何年か前に東京の横田基地界隈を歩いていたときに小さなお店で見つけたもの。お店の方が、捨ててしまうのはもったいないと、古い着物の布で作ったことを話してくださいました。着られなくなってしまったものでも、こうしてまた息を吹き込まれるものもあるのですよね。

古布から作られた小物入れ

与氏も作品を作る古い布(化繊のものは除く)を捜していらっしゃるという話がミューズ館に掲示されていました。ここでも、古布が新しい命をもらっているのですね。着物の布は、今は洗濯できるような便利なものもあって多様化しているようですが、古来の日本の布の、柄や風合いなど、その独特の美しさに改めて気づかされます。