ワラビ(蕨)とタピオカ

暑い夏にぴったりの涼しげなおやつ、わらび(蕨)もちとタピオカ入りココナッツミルクです。ぷるっとふるえるお餅。ぴにゅぷにゅでモチモチの食感のタピオカ。どちらもツルッとした喉ごしのよさがたまりません。
数年前に京都の平安神宮の近くのお蕎麦屋さんでいただいたわらび餅は口の中でとろける美味しさ。「本ワラビ粉」という貴重な材料で作られる和菓子だとはじめて知りました。

蕨もちとタピオカ.jpgわらび餅の原料のワラビ粉は、あの山菜のワラビの根っ子の澱粉質からできたもの。でも最近では本物のわらび粉は非常に貴重な材料になってしまったとのこと。「本ワラビ粉使用」とか「ワラビ粉100%」と謳っているもの以外は、別の澱粉をまぜていることが多いらしい。ジャガイモやタピオカなどの別の植物の澱粉に助けてもらっているそうです。

えっ、タピオカ?ココナッツミルクの中に入っているタピオカのこと?そうなのです、透明な粒々のタピオカの正体も、実は澱粉。キャッサバという南方の芋の根っ子を粉にしたもので、良質で消化率がよいときているのでワラビ粉の代用として使われるようになったそうです。デザートのタピオカはタピオカ粉を粒状に加工したものなんですって。

「むかしはワラビ、今は東南アジアのお芋タピオカを使っている」 これはデザートの話ではありません。かつてワラビ粉は、番傘の糊としても使われていました。竹で組んだ骨組みに和紙を張るには、雨で剥がれない糊が必要です。ワラビの根の澱粉は水に強く虫にも食われないため、傘用の糊として重宝されてきたそうです。

でも、ワラビの根からデンプンを取り出すには、相当な労力を要する仕事であるうえ、今では原料の根っ子の収穫量や製造者が減少してしまい、残念なことにとても高価な粉になってしまいました。そこへ登場したのがタピオカ澱粉。保水力が強くすぐれた糊になるので、和傘の糊にはもってこいというわけです。

昔からの涼を代表する和菓子と同様、日本の伝統工芸品の世界でもタピオカは救いの神になってくれたのです。ちなみに和傘以外にも西陣織など高級織物染色にも使われているそうです。
いろは堂でご紹介している、日吉屋さんの京和傘もやはり昔は蕨粉を使っていたそうですが、現在はタピオカ粉を水で混ぜて糊にしているそうです。糊にする作業をお聞きしたところ、大変手間のかかる作業なのでびっくりしてしまいました。

タピオカ粉を水と一定の割合で混ぜ、それを火で炊きながらかき混ぜます。とろみが出て来たところで、今度は擂鉢に移し、擂りこぎで20分~30分こなし、一晩寝かせます。翌日再度擂りこぎで20分~30分こなして、やっと使える糊になるんだそうです。

日本には自然の素材を用いて作られる工芸品がたくさんあります。けれど自然環境が変わり、生活様式も一変してしまった今、大切な習慣や伝統を守っていくためにいろいろな面で創意工夫がなされているのだなぁ…。ガラスの器の中でゆらゆらゆれるタピオカを眺めながら思うことでありました。